今も昔も

ここ数年、不動産の賃貸業で革新的だなというサービスがいくつか出ているように思う。

仲介手数料をとらない、とか敷金、礼金、更新料と取らないとか。

あきらかに消費者にとってありがたい動きなのだが、それが一般化しないということは、いかに不動産の所有者が強いのか、ということを物語っている。

不動産を借りるには審査、というものもあり、オーナーがノーといえば、借りられない。

所有者が強い。それは当たり前である。自分のものを貸すかどうかは、所有者の決めることである。無理矢理に借りる権利などというものは、ない。

とはいえ、所有者も、借り手がいないと宝の持ち腐れということで、適当な人には貸したい。

適当な人、というのは、ちゃんと家賃を納めてくれる人である。

この、ちゃんと家賃を納めてくれる人を選別するために、礼金がある。礼金は敷金と異なり、返ってこない。そうしたお金を支払ってまで住みたいという意思、及び財力があれば、ちゃんと家賃を支払うだろうということだと思う。ただ、礼金は無駄金だから、よほど魅力のある物件以外では借り手がつかなくなるため、礼金のない物件も多い。礼金は純粋に借り手を選別するためのものといえる。

敷金は改正民法にも盛り込まれる予定だったかと思うが、退去後の原状回復等に充てるために前もって支払うお金で、未使用分は返還されるものであり、合理性はあるとおっもう。敷金ゼロをうたう物件もあるが、結局はクリーニング費用を事前に徴収したり、事後的にもらうものはもらうようになっているので敷金を支払う場合と実質的な差異はないだろう。

チェーン系、それなりの規模の仲介業者になると、礼金、敷金の他に、消化器やら害虫駆除やらサポートやら、なにかと理由とつけて数万円を取っていく。本当に意味があるサービスが提供されるのかは微妙だが、その物件を借りるには支払うしかないという意味で礼金に近い。

更新料は、これまた礼金と同様に、借り手を選別するものである。払っても何らの対価はないから、完全な無駄金である。払うのが嫌なら出て行け、ということである。空室が出ることはオーナーにとっては損失だが、更新料を支払えないような賃料滞納リスクのある住人を追い出せる、という機能もあるといえるだろう。さらに、更新事務手数料というものもあり、家賃の何割かを徴収される。

不動産の賃貸にまつわるお金のなかで、その存在に合理性があるといえるのは、敷金くらいではなかろうか。礼金、更新料などは、借り手にとっては意味なく支払うお金である。賃料滞納リスクは保証会社が担い、保険料に反映されるべきだから、礼金、更新料は保証会社を使う以上は不要である。

それでも、いまだに礼金や更新料があるのは、それらを支払ってでも借りたい、という人がいるからである。礼金や更新料を取っていてはどんな物件でも借り手がつかない、という状況を作り出さないかぎり、礼金や更新料はなくならない。それだけ、不動産の所有は強い。

資本のない不動産会社が、業界の慣習を打破して礼金や更新料といった旧態依然の悪習を駆逐してやる!と意気込んでも限界がある。資本がない以上、礼金や更新料を取ることができない質の低い物件をかき集めてアピールするしかないからだ。質の高い物件のオーナーが、取ろうと思えばとれるカネを放棄して、業界の改善に協力するということは夢想である。金持ちはお金にシビアであるから。

消費者が不動産を賃貸するときの無駄なコストを排除する、ということを実現するには、資本調達力のある不動産会社が、質の高い物件を相当数確保して、礼金も更新料も取らないという運営をするしかないのではないか。間違いなく、消費者はそこに殺到する。(既にあるURはこれに近いが誰でも申し込めるわけではない。)この礼金、更新料不要物件の数が少なすぎると、そこを借りられた人がラッキーで終わってしまうが、一定数以上になれば、業界のスタンダードになっていく。物件の質が高かろうが礼金、更新料を取っていては借り手がつかない、ということになる。そのために一体どれほどの資本が必要なのかは検討がつかないが・・。

結局、そこまでして誰が得するのか。消費者は得をする。しかし、貸す側、仲介する側にとっては、得がない。そのため、現状は当面変わらないだろう。

人口減少により借り手が減り、部屋が余ってきたら、大家も強気に出れなくなり、礼金や更新料はなくなるかもしれない。東京は人口減少の影響は少ないといわれる(老人が増えると言われるが)。だから、変化は地方から起き始めるかもしれない。

結論としては、地主は依然として最強ということでした。